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お礼の時効
第3章 あなたを傷つけるようなことはしません
「時任さん、なぜ逃げるんですか?」

怒気を孕んだ声で浅野は春季に詰め寄ってきた。
春季は浅野と目を合わせぬよう、顔を背け言い放った。

「あなたが追いかけてくるからよ!」

間髪入れずに浅野は問い詰める、ますます語気を強めてきた。

「どうして目を合わせようとしないのですか?」

春季は目を瞑り、震える声をなんとか振り絞り声を張り上げた。

「あなたと会いたくなかったのよ!」

春季のその言葉に浅野は一瞬体を硬直させた。それまで不機嫌そうな顔がどんどん苦しげな表情に変わり始めてきた。

「どうして……、あの時逃げたんですか?」

振り絞るような浅野の声に異変を感じた春季は、おそるおそる顔を浅野に向けた。
浅野の苦しげな顔に春季は心が痛んでしまう。

浅野に罪悪感を感じた春季は、それは迷いとばかりに顔を背け目を閉じるが、瞼の裏に浅野の悲しげな顔が浮かぶ。
逃げ続けられるはずはないのだ、春季と浅野が互いの立場を考えればそれは無理な話だ。

駄目だ……逃げられない……
そう思った途端春季の体が震えた、浅野と関われば過去の痛みを思い出してしまう、最後の恋愛で苦しんだときに抱えた痛みを。もう傷つきたくない。

「あなたが……っ……」

振り絞るように声を上げたとたん、春季の心の 箍(たが)が一気にはずれてしまった。

「あなたが私の心をかき乱すから……っ」

一気に春季の感情があふれ出した。ずっと心の奥に閉じ込めてきた過去の痛みも。
体の力が抜けて、涙がこぼれだし、春季はそれを抑えられなくなっていた。
泣き崩れる春季の姿に、浅野はうろたえてしまう。

「もう……傷つきたく……ないの……」

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