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お礼の時効
第5章 あなたは私が守ります、ずっと
「あんな女に引っかかるとはね。あのキレモノの浅野検事もそれまでの男だってことさ。おおよそ春季の体が目当てなんだろうが、あいつは不感症だから面白くも何ともないだろうよ」

おいと同僚たちがその男を御するが、その男は得意げに話している。

春季はどうしようもない怒りがこみ上げてきた
自分のことなど好きに言えば良い、ただ浅野のことを侮辱されるのは我慢ならない。
すると、隣の席にいた浅野がガタンと音を立てて立ち上がった。
咄嗟に浅野の腕を掴み顔を見上げると、その顔はたとえようもない怒りの形相になっていた。

「離してください、春季」
「私のためにあなたの立場を悪くしないで頂戴、いい迷惑だわ」
「あなたを侮辱する男は許さない」

浅野の声は唸る獣のようだった。

「いいのよ、お願い。座って頂戴。みんなが見ているわ」

浅野はまだ納得していないようだ。
なぜ泣きそうになっているのか自分でもわからない。胸の奥が痛む。
震える声を振り絞り、浅野に懇願した。

「……お願い……もういいの……」

浅野は春季の声が震えていることに気がついた。春季のほうを見下ろすと肩が震えている。顔を見ようとするが、俯いていて分からない。唇を噛み締めているようだ、唇も震えている。
苦しそうな表情を浮かべ浅野は春季に声をかけた。

「出ましょう、春季」

店を出て歩き出した途端、気が緩んだのか両目から温かいものがあふれ出した。
なんとか止めようとするのだが止められない。
それまで心の奥に閉じこめていた思いが溢れ出した。
それはかつての恋人に裏切られていたことを知ったときの哀しみだった。
こみ上げる嗚咽を必死に抑え堪えていると、突然浅野に抱きしめられた。

「あなたは私が守ります、ずっと」

浅野の言葉を聞いて、ますます春季の涙が止まらなくなった。
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