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お礼の時効
第10章 あなたと一緒に幸せになりたいの
 寝ても覚めても求められる。ふとした仕草に劣情を感じてしまうのは、離れている時間が多いからか。
 春季は和臣に抱かれながらそんなことを考えていた。ようやく和臣に話すことを思い出した春季は、体を起こし和臣を見下ろした。眠そうな目を細め自分を見上げる和臣が、春季を抱きしめ腕の中に閉じこめようとした。それを春季は手のひらで制すると、和臣は諦めてそのままベッドに身を沈める。

「話があるの」

 和臣は怪訝そうな顔で春季を見上げている。これから話す内容を心の中で反芻した。喜んでくれるだろうか、迷いを感じる。

「赤ちゃんができたの……」

 和臣は目を見開き、勢いよく体を起こす。春季の下腹へ目を落とし、春季の顔を見上げた。

「は……っ、春季? 病院……病院行かないと……」

春季の体を抱いて慌ててベッドから出ようとする和臣を止めたのは、春季の一言だった。

「もう安定期に入ったから大丈夫よ、和臣」
「で、で、でも……っ。昨日から何回……も……」
「その点については、かかりつけのドクターに相談したから大丈夫」
「え、え? ええ?」

 どこまでも冷静な態度を崩さない春季に縋り付いて、和臣は昨夜からの情事を思い出し激しく動揺していた。そんな和臣の背中を撫でて落ち着かせようとしていると、春季の腰に和臣は腕を回して下腹に顔を寄せた。そういえば少しふっくらしているかに思える春季の腹に唇を寄せてキスをおとす。和臣は春季の胎内に宿った新しい命に思いを馳せた。

 ようやく落ち着いたのか、和臣は愛おしげに頬をすり寄せてきた。ひとつ大きな息を吐いて和臣はぽつりとこぼす。

「春季を幸せにしたいと思っているのに、私ばかり幸せを感じる」

 春季は和臣の頭を撫でた。

「馬鹿ね、私はとても幸せよ。私はあなたと一緒に幸せになりたいの。それを勘違いしないでくれる?」

 和臣は春季を見上げ困ったように微笑んで。思わずその言葉を口にした。

「私は幸せですよ、春季……」 

 春季はその言葉を聞いて微笑んでいた。
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