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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
 

「朱羽、その傷跡どうしたの? 怪我でもしたの?」

「ああ、これ心臓の手術痕。腕のいい医者だったおかげで、肋骨あたりからの手術で傷が小さめだったんだ。そうじゃないと、胸の真ん中にヤクザみたいな傷が出来ていただろうね。……それでもこれ、気持ち悪いだろう? いつも見せないようにはしていたけれど、失念してしまった。ごめんね」

 ベッドに腰掛けながら、床に放ったままのシャツを拾って袖を通す朱羽は、傷跡を隠そうとしているのだろう。

 気持ち悪い?

 全然そんなこと思わないのに。

 あたしは全裸のまま四つん這いになって、シャツの中に入り込み、朱羽の傷跡に唇で触れた。

「陽菜?」

「朱羽を生かせてくれた傷なんだもの。愛おしいもの。気持ち悪くないよ? だから隠そうとしないでいい」

 朱羽はふっと笑みを零して、あたしの頭を優しく撫でた。

「ありがとう」

 その静かなる笑顔に、疼く胸の奥が苦しい。

「だけど今はシャツを着ておくよ、冷え込んできたから。陽菜はワンピースを着ておいで」

 その蕩けたような茶色い瞳に見つめられると、吸い込まれそうになる。

 朱羽が欲しくて息があがる。

「そんな顔しないの。今は、休憩」

 顔を傾けた朱羽に唇に軽くキスされた。




 ホームバーにぎっしりと置かれてある酒の瓶は皆小さい。その瓶を買う形なんだろう。

「冷蔵庫もあるようだ。中には……うん、定番のジュースが入ってる。カンパリとトニックウォーターもあるみたいだし……」

 シャツを素肌に羽織っただけのその悩ましい格好で、朱羽は長細い形のタンブラーを取り出し氷を入れ、あたしもよく聞く「CAMPARI(カンパリ)」と書かれた小さめの瓶から赤い液体を注ぎ込んだ。

 次に冷蔵庫から、グレープフルーツの絵が書かれたグレープフルーツジュースを思われるものを入れ、銀色の缶を冷蔵庫から取り出しプルタブを開けた。それを長いマドラースプーンで氷ごとかき混ぜた。
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