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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
 

「多分、俺の記憶が正しければこの分量でいいはずなんだけど……」

 絶対朱羽の記憶は正しいだろう。間違うということはよほどのことが無い限りなさそうだ。

「オレンジ色が綺麗なカクテルだね。なんという名前?」

「スプモーニ。聞いたことない?」

「あ、どこかで聞いたことがあったかも。いただきます」

 一口飲んだら、甘くて美味しい。

「美味しい、ちょっとなにこれ、美味しすぎる!」

「そりゃあ愛情込めましたから。どこよりも美味しいと思いますが?」

 にやりと笑う朱羽は、真っ赤な顔で狼狽しながら飲むあたしを一瞥すると、少し丸味を帯びた幅の広いグラスを取り出し、中に氷を入れ、瓶の中から縦長の小瓶を選んで、グラスの中に入れた。

「ウイスキー?」

「うん。ジョニ黒」

 ジョニーウォーカー ブラックラベル。

 結構朱羽は渋い。

「乾杯」

 グラスをかち合わせると、とても綺麗な音がした。

「朱羽はなんでも知ってるんだね」

 甘いグレープフルーツ系のお酒が、乾いた喉を潤しぽかぽか気持ちがいい。こんなに気持ちよくなり続けていいんだろうかと、ぼんやりと考える。

「向こうの暮らしと、渉さんのおかげでね」

 立ちながら、腕を組むような形でグラスに口をつける朱羽は、目元を妖しげに艶めかせたバーテンさながらの、どこまでも美貌な男で。

「ああ、陽菜。ビリヤードで遊ぶ?」

 朱羽は顎でプレイムールを促した。
 
「あたし、ビリヤードしたことがないけど……」

「じゃあ教えてあげる。グラス持っておいで?」

 朱羽に肩を抱かれながらプレイルームに行く。

 お馴染みの大きな緑色の台に、カラフルなボールと棒(キュー)。

 朱羽はビリアード台にグラスを置き、中央にある複数のボールを手でぱらぱらと崩し、それを見ながら、キューを宙で軽くくるくると回した。

 ……こいつ、慣れてる。

「ルールは簡単、キューで突いたボールをポケットと言われるあれらの穴に入れればいい。キューのグリップを持つ右手はこんな感じ」

 朱羽はあたしの指導に入る。
 
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