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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
 
 昔、木島くんに言ったことがある。

 文字だけの会社のパンフレットを、一度に視覚化できるようなものを、若い子向けだけではなく、老人に提案する気で、優しいWEBを作ってみろと。

 木島くんはデザイン頭だから配置など構図にセンスがあり、さらに図形や表などを交えて組み立てれば、とても見やすいのだ。

 しかも木島くんは、書道の準師範という腕前の持ち主らしく、水産会社のWEBだのメニューや看板文字で毛筆体が必要な時は、販売されているデザイン系のフォントではなく、彼がそれを家で書いてきたものをスキャナで画像化して、WEBや版下に使っている。

 まあそんな達筆な木島くんの文字でわかりやすくまとめられた議事録は、10案にも上り、そのどれもが大きく×がついていた。


「方法、見つからなかった?」

 すると衣里が頭を横に振った。

「香月と杏奈が先に手を打っていてくれたものを使って、それを武器に向島専務を抑える」

 衣里は不敵な笑いを見せた。

 ……必ずそこから仕事を取ってくると決めた時のような顔で。

「手を打っていてくれたもの? それはなに?」

「……鹿沼ちゃん。それは明日、見てのお楽しみだよ~」

 杏奈は笑う。

「見てのお楽しみ?」

 朱羽も口元を綻ばせて、静かに言った。

「あなたは大根役者の肩書きがあるので、その時まで内緒です。向島専務は、あなたの演技などすぐ見抜いて、俺達がなにか仕掛けているのではと警戒されては困りますから。俺と三上さんは見抜かれない自信、ありますので」

 眼鏡のレンズがキラン!と光った。

 あたしはなにも言い返すことが出来ず、ぽりぽりと指で頬を掻いた。

 いや、だけど待って。

「行くの? 専務に会いに?」

 行かせないと皆が言っていたのに?
 
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