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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
「そうなんですよ、社長。あたしひとりがそわそわしてノートパソコン見ているのも気分悪くなるのに、あのふたり悪質なコメントが流れる掲示板とかを、にやにやしてずっと見続けているんです。消せるはずなのに消さない。まあいたちごっこになるとは思いますけど、悪意あるコメントを見すぎて、おかしくなっちゃったのかな」
乾いた笑いをすると、社長はふっと笑う。
「……肉を切らせて骨を断とうとしているんだろ」
「え?」
「窮鼠猫を噛み、災い転じて福となす……だろうよ」
「窮鼠猫を噛む」とは、絶体絶命に追いつめられた鼠が猫に噛みついて反撃するように、弱者も窮地に追い込まれれば、相手が強者であっても必死の反撃をして相手を苦しめるという意味だ。
つまり社長は、弱者であるうちが、強者である向島に肉を切らせながらも、向島の骨を断って反撃する、と。多少のこちらの犠牲を伴いながらも、今ある窮地は切り抜けられるだろうと、そう言っている気がした。
「社長は、今日リミットの訴訟問題、なんとかなると思いますか?」
「なんだ、お前は信じられないのか」
「なんというか、焦ってないなあと。させてるままだなと。今三時ですよ? だけど反撃するようにも思えない」
「五時だったか、お前達が向島に行くの」
社長は社員の変化にすぐ気づき、あたし達は逐一社長に現状を報告している。
「はい。あたしと香月課長と、杏奈とで」
「ふふ……。今日は金曜日だしな、五時か……」
「え、日付が関係あるんですか?」
「いや、な。香月が面白いことを聞いてきたから」
「どんなことですか?」
「きっとそれは、五時にわかるだろう。楽しみにしてろ、あいつらがなにをしてたのか。お前はなんの役目だ?」
「専務に、向島専務を逆上させろと」
「はは、それはいい。いいか、鹿沼。逆上している時は、なにひとつ、細かく起きる事象がなにを意味しているのかわからなくなる。つまり直感と判断を鈍らせるだけではなく、自己の危機管理が出来ない」
「はあ」
「お前の役目はかなり重要だぞ。香月と三上ときちんと仕事を分担して、お前は思い切り逆上させてこい」
社長は愉快そうに笑った。