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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
さすがは大会社。
受付の秘書を通さなければ、向島専務の元に行こうとすると警備員が飛んでくる仕様らしい。
杏奈へ視線が向けられるのは、その格好だけなんだろうか。
杏奈がシステム開発の部長をしていたのを知っている者達ではないのだろうか。
そう思えど、杏奈はそちらに目をくれず、堂々と胸を張っていた。
そしてさらには杏奈だけではなく、受付の綺麗なお姉様達やこのビルを行き来する……性別メスの人間達が、朱羽を見てるのだ。
杏奈と朱羽に挟まれるあたしは居たたまれないが、杏奈同様朱羽もそちらに目もくれず、ふたりとも冷ややかにも見えるまっすぐな目をしていた。
そして朱羽は、「行こう」とあたしを促す目だけを優しくしてくれたから、あたしは皆の前で朱羽に抱きつきたくなった衝動を抑えた。
向島専務は、この向島ビルの18階にいるらしい。
何階建てなのかしら。帝王ホテルよりも階数がする気がする。
チンと音が鳴り、半透明の自動ドアを開けると、そこにもスーツを着た綺麗な女性がふたり座っており、あたし達を見ると立ち上がってお辞儀をしてくれた。
この階に限らず、このビルに居る女性が美女揃いなのは、向島の趣味なんだろうか。
「シークレットムーンの香月さま、三上さま、鹿沼さまですね? 専務はこちらです」
先導する彼女は、豊かな胸とくびれた細い腰を強調するような黒いスーツを着て、膨れたタイトスカートからわかるむっちりな尻を揺らしながら、突き当たりのドアをノックをして彼女は言う。
「専務、お客様がお見えになりました」
「通せ」
威圧感ある向島専務の声が漏れ聞こえる。
「わかりました。どうぞ、奥へお入り下さい」
ドアが開かれた。
大きな窓をバックに、向島専務は座っている。
重厚な机の上に両肘を乗せた手を組み、その上に顎を乗せ、あたし達を捕えるかのような鋭い眼光を光らせて、こちらをじっと見ていた。
そして思う。
やはり彼の目には、杏奈しか映っていない。
姿を変えた杏奈を、彼はどんな想いで見ているのだろうか。
本当に憎悪だけしか残っていないのだろうか。
彼の視線に、あたしの胃がキリキリと痛み、思わずお腹に手をあててしまった。