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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
向島専務は、そのままの体勢で、ただ鋭い目だけであたし達を捕縛しようとする。……それだけの威力がありそうな、迫力に満ちた目で。
「なんだ? お前達三人で、有利な条件を俺に飲めとでも?」
「私がいて、そんなことをすると?」
朱羽の眼鏡のレンズが光ると、向島専務の目がさらに険しさを増した。
「では、なにをしにきた?」
朱羽はカバンを持ち上げた。
「ここに、あなたを追い詰めるものが入っています」
その中にはノートパソコンとタブレットしかないと思うけれど……。
「これを差し出す条件に、あなたにお願いを聞いて貰いに三人で参りました」
え? そうなの?
そう思いながら、あたしも笑う。
「ぶはははは」
向島専務は笑う。
「俺がそれに従うとでも? そんな安っぽい挑発に乗るとでも思うのか」
しかし朱羽は動じない。
「はい。必ずあなたは、俺達に従います。そしてもうひとつ、予言しておきましょう」
冷たい笑みを顔に浮かべながら朱羽は言う。
「あなたは俺達を、いや三上さんを含めたシークレットムーンを手に入れることは出来ない」
「その根拠は?」
「ですから、このカバンの中に入っています」
「ではそれを見せろ。外見からして、入っているのは機材のようだが」
「仰られた通り。本当にこれを見たいんですか?」
「見たいではなく、お前達は見せざるをえない。俺の牙城に入ってきたんだ。電話一本でお前らは、日の当たらない世界の端の地下で、幽霊のように生きさせることも俺はできる」
「……そんなこと出来ないよ」
そう言ったのは杏奈。
「あなたは、そういうことが出来る人間じゃないから」
「ほぅ? お前に俺のなにがわかる?」
「……だったらあなたに杏奈のなにがわかる?」
専務の手が外され、椅子の背もたれに背中を凭れさせて、両腕を組んで杏奈を見据えてくる。
「馬鹿な物言いとその格好はやめろ」
「これも杏奈だもん」
「吐き気がする」
射られている杏奈の顔が赤くなったり青くなったりしているのは、激高と恐怖の狭間にあるのだろう。
「あなたの知る杏奈はどんな杏奈だったのかわかりませんが、杏奈は杏奈です。外観から杏奈を判断するのなら、あなたの愛は偽物だったということですね?」
毅然と言い放つと、案の定専務の顔が険しくなった。