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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
 

 朱羽がため息をついて、静かに言った。

「あなたは、私達が勝てないと思い込んでいるようだ」

「当然だろう!!」

「最後の警告です。……ここらへんで引いて下さい。引かないのなら、こちらも勝負に出ます」

「ははは、誰が引くか。身の程知らずな。その勝負とやらを見せてみろ」

「後悔しませんか?」

「するはずがない」

「……仕方がない。そこまであなたが勝ち負けで物事を測ろうとを言うのなら、勝ちに行きます」

 朱羽がバックからタブレットを取り出して、専務の机の上に置いた。

 え、渡しちゃうの?

「これなんだかわかりますか?」

 タブレットが表示しているのは――。

「株価だろう」

 折れ線グラフになっていたり、数字がびっしり入った表が並んでいる。

「はい。これは月曜日の貴社の株価の画面コピーをしたものです」

「それがなんだ」

「月曜日、なにが起きたかおわかりですよね。向島の製品が叩かれた。つまり株はどうなると思います?」

 専務ははっとしたような顔で朱羽を見た。

「まさか、お前!!」

「はい。下落した折れ線グラフの一番下、この部分で株を買わせて貰いました。三上さんと」

「ふたりくらいが買ったからなんだというんだ」

「あなたは自社株を何%お持ちで?」

「20だ。それ以上の数の株が買われたなど、報告は来ていないぞ!!」

「当然。ちまちまと1%ずつ買いましたので」

「はっ、1%くらい……」

「なんで、下がった株価が安定したと?」

「そんなもの……。なんだたった2%で大きな顔をしたいのか? 2%でなにが出来ると?」

「2%ではありません。今残っている全社員20名プラス重役ふたりと社長と渉さんと沙紀さんの分を1%ずつ。つまり25%分」

 朱羽はにやりと笑った。

 あたしは思わず尋ねてしまった。

「え、だけど株を買うには、本人名義の証券口座……あ!」

 そしてあたしは思い出す。シークレットムーンに来た時に、確か証券会社に口座を作りに行った。

 そう、六年前だ。

――社員には株を100株ずつやるからな。会社が大きくなったらお前達金持ちだぞ~?

――そんなこといって、退職金を株で……というつもりだろう、社長。

 そんな会話を結城と社長がしていた記憶がある。
 
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