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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
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「はい、ありがとうございました。ここまでして頂くとは」
「どの口が言う」
専務は面白くなさそうだ。
「いえ、あなたは負けを認めたら素直になると渉さんからアドバイス貰っていましたので。そういうところ、変わっていないんですね、ちゃんと渉さんに報告します」
「いらねぇよ。くそっ、こう見事にアッパー食らわせられるとは」
「ははは。それと訴訟のこと。そちらが取り下げてくれるのなら、こちらもすぐ取り下げると、結城社長代理からの伝言です。和解案はいくらでも話の席に着くけれど、下手に変な動きを感じれば、いつでもこちらは強硬に動くと」
「ふん」
向島専務は、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「では、出ましょうか、皆さん」
「……宗司」
強張った顔で杏奈が専務を呼んだ。
「負けは負けだ。……お前からも手を引く」
専務は杏奈に顔を向けず、椅子を回転させて背を向けると、ぶっきらぼうに言う。
「……お前らしく生きろ」
杏奈の目からぽろぽろと涙が零れた。
アンティックドールが涙したようなそんな絵図――。
「宗司……私は宗司が本当に好きだったよ。だけど宗司と約束した……あなたのお嫁さんになれなくてごめん……」
「………」
「私はあなたと違う人生を歩む」
「………」
「必要とされる限り私は……平穏な仲間の場所に帰りたい。ありのままの私を認めてくれるシークレットムーンが、今の私が愛する家なの」
「………」
「お願いだから宮坂専務と和解して。あのひとはあなたを心配してる。彼はあなたを苦しめないし、変わらない。わかっているでしょう?」
「………」
「そして千絵ちゃんも解放してあげて欲しい。私はもう逃げも隠れもしないから、怒りを千絵ちゃんにぶつけないで。あの子、お兄さんを慕っていた……本当に良い子なのよ」
「………」
「……宗司」
杏奈はぺこりと頭を下げた。
「私を愛してくれてありがとうございました!」
……あたし達は知らない。
あたし達三人が去った後のがらんとした専務室で、
「俺では……お前の家族になれないのか、杏奈……」
あたし達に背を向けていた専務も杏奈のように涙していたことに。
「……はっ、残酷だな。俺がお前を愛したのは、もう過去か――」