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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
「……ふたりだけじゃない、今残っているシークレットムーンの社員達は素敵な人達ばっかりじゃない。他人のことを自分のことのように怒って泣いてくれる皆がいるから、私は生きていける。シークレットムーンにいれば、私は私でいいのだと、胸を張って生きて行けそうな気がするの」
杏奈の目から落ちる一滴の涙は、悲しみではなく歓喜のもので。
「私を信じてくれてありがとう。私のために怒って泣いてくれてありがとう。杏奈は死ぬまで忘れない。宗司がしでかしたことに、ひと言も杏奈に恨み言を言わなかったこと。杏奈を守ろうとしてくれたこと。逃げていた杏奈に宗司にちゃんとさようならを言えるチャンスをくれたこと。……本当にありがとう」
そう杏奈が頭を下げるから、あたしは泣きながら頭を上げさせる。
「なにを言っているのよ。杏奈だってずっと働くあたしを見守って支えてくれたじゃない。そんなの当たり前よ、友達なんだから」
「鹿沼ちゃん……」
「あたしだけじゃない。シークレットムーンは友達であり家族でしょう? 家族を助けるのは当然。あたしは、杏奈が向島専務のところに行くかもしれないと思っていたから、だから……帰ってきてくれてありがとう」
あたし達は抱き合いながら、泣いた。
冷たい秋風に吹かれながら、行き交うスーツ姿の男女にじろじろと見られていながらも、朱羽もまた、あたし達が泣き止むまで傍に居てくれた。
彼のその広い背で、あたし達を人の目から隠してくれながら――。