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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
「だけど、まさかはったりかましていたなんて……。全然そうには見えなかったのに」
朱羽は目を細めて笑った。
「はったりが成功するかどうかは、強く言い切って笑うこと。これは結城さんにアドバイス頂きましたから。まあなんとか成功しましたが、本家本元の結城さんならきっともっと感動的だったかと。このひと、ワルだと思わせてくれたと」
「十分お前もワルだよ、香月。な、鹿沼。香月営業にいいだろ? こうやって少しずつ調教して、香月を営業に……」
「結城ちゃんダメだよ、香月ちゃんはプログラム開発が貰う!!」
「なに言ってるっすか、三上さん! 香月課長はWEBに必要っす! ね、主任」
「そうよ、営業にあげないから!」
「じゃ、社長命令で!」
「このボケ! まだ社長じゃないでしょ!! あんたはこれからが戦いなの!」
衣里が結城を罵倒するのはいつものことながら、衣里が社長のところではなくて結城の隣にいるのは珍しい。
そして木島くんも、杏奈の傍から離れない。
無意識なのか、意識的なのか――。
あたしと朱羽が隣り合うように、彼らにも隣り合う時がくるのだろうか。
……そんなことを思うと、少し微笑ましく感じた。
朱羽があたしの服を摘まむ。
どうしたのかと顔を向けると、朱羽の形いい唇が動いた。
"ご ほ う び"
――……勝ったら夜、ご褒美貰うよ?
いやいや、祝賀会を抜け出れないよ、朱羽くん。幾らなんでも盛り上がっているところをすっと抜けるのは……。
今から始まったんだし、今帰れないってば!
そう目で訴えているのに、朱羽は腕時計を指でさして急かしてくる。
あたしが首を横に振り、朱羽の唇が尖る……どちらも曲げない軽い睨み合いが数十秒続いた時、突然パチンと柏手ひとつ。
「思い出した! 香月、やっぱ"例の件"頼まれてくれねぇか? すげぇ時間かかるからそのまま帰っていいわ、今日はお疲れさん」
そしてまたパチンと柏手ひとつ、聞こえてきた。
「陽菜、私も思い出した! あんたまだ行ってないでしょ、今からだったら間に合うから早く行って? 遠いところだから、戻ってこなくていいよ」
全く意味がわからない。
あたしも朱羽も結城と衣里から、なにかを頼まれた覚えはなかった。