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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
「俺がこんなこと言うのもなんだけど、結城さんが社長になろうとした理由のひとつは、あなたが部下としているからだと思う。恋愛関係や友情とはまた違う、月代社長のように家族のように近くで見守ろうとしてくれていたのだと。……あなたの帰る場所を、確立しようとしてくれているのだと」
「………」
唇が震えた。
社長に語り尽くせない恩義を感じている。結城にも、過去がどうであれ、結城に救われていた部分はちゃんとあったから。
社長の意志を引き継ぎ、結城が家に、家族になってくれようとしている。
だけどあたしは――。
「……ちょっと、待っててくれるかな。あなたと俺が立て続けに辞めたら、恐らく結城さんのダメージが大きい」
そうだよね、今さらだけど……朱羽も辞めるんだ。
何度も会社の危機を助け、結城が友達と認めた朱羽まで、会社を辞めるんだ……。
「……わかった。様子を見ながらということで。……退職願は持ち歩いてるよ。あれ、直属の上司に渡しておいた方がいいんだっけ?」
「……俺からより、あなたからの方がいいだろう。結城さんにとっては、まだ……」
朱羽は、物憂げな思案顔で遠い空を見上げていた。
太陽が輝いているにもかかわらず、遠い空には鈍色の雲に覆われて。
嵐の予感――。
そう、感じた。
アップルパイ――。
なにか手伝いたいとすり寄ってくる朱羽に、林檎の皮むきをお願いする。慣れた手つきで一度も切れずにしゃりしゃりと皮を剥いていく。
「うますぎ。あたしより上手いじゃない」
「そりゃあ俺も、小学生の時から料理していたから。母親が家に男を引っ張りこんでセックスばかりして、作ってくれなくなって。生きるため、かな」
笑顔だけれど、凄惨な過去だ。