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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
朱羽とふたりで作ったアップルパイ。
奇しくもアメリカ帰りのひとに、アメリカンだという……ショートニングを使ったアップルパイを作ることになろうとは。
それでもあつあつの林檎と、あっさり味のサクサクするパイはとてもうまくいったようで、本格的に湯を回すようにして淹れてくれた朱羽の珈琲のほろ苦さ加減とマッチして、どんな喫茶店にも負けないほど美味しい昼食タイム。
手伝って貰ってしまったけれど、喜んで貰えてとても嬉しい。
途中朱羽のお膝にだっこされて、アップルパイにも負けない甘い甘いキスと、服を脱がされながらの悦楽がご褒美で。
林檎より、漂う朱羽の匂いの方が魅惑的だった。
会社の分のアップルパイ。既に揚げていた餃子の皮も持って、持参したケーキの箱とタッパに入れた。
朱羽はダークブルーの背広を着て、あたしは持参したスーツを着て。
ここからはまた、戦闘態勢となる。
シークレットムーンのWEB部課長と主任の肩書きは、早くて今日、遅くとも月曜日になくなる。それまでの、正式な鎧だ。
今度このスーツはいつ着ることになるのかわからないが、辞める最後の一秒までは、あたしはシークレットムーンの一員でありたい。
わがままだろう。わかっている。あたしは仲間失格だ。
それでもせめて――。
「じゃあ、いこうか」
朱羽が手を差し伸べる。
「うん、いこう」
……あたしが選んだのは、この手だ。
「また、ここに来て。これを最後にしないで」
「うん。またお邪魔させてね」
朱羽との未来を感じられなかったマンション。
だが、なにか後ろ髪引かれる思いで玄関先で振り返り、記憶に刻みつけるようにして家の内を眺めながら、また来ようと心に決め、あたし達は出ていった。