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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
***
東大付属病院内病室――。
アップルパイ丸々一個と、朱羽に作った分がどうしても半分残ってしまったため、朱羽にまた作ってと言われて、その半分も予備として持参してきた。
合計一個半のアップルパイを、結城、衣里、社長、専務、沙紀さん、木島くん、杏奈、そして社員二人の合計九人が、一個を六等分した大きさのものに、木島くんが切り分けてくれる。
林檎の山とあっさりサクサクパイは、味も食感も大好評で、あたしは内心ガッツポーズ。
協力してくれた朱羽と、背後に回した手を叩き合った。
「しかし主任が食べないのはわかるっすが、なんで課長まで食べないっすか? こんなに美味しいのに」
「木島ちゃん、聞くだけ野暮野暮!! 二個じゃないところがミソ」
「?」
「鹿沼、うめぇ。お前の手作りケーキ、俺だけ皆より大きくて、より一層の愛情が籠もってて、こうジーンと……」
「なに感動して泣いてるのよ! 木島くんがミスして、ちょっとだけ私達より大きく切っちゃっただけでしょ!? ミスよミス、偶然!!」
「くそっ、香月!! どうせお前はもう食べてるんだろ。だけど、お前が食べた方が、俺より小さいよな!?」
「……ふ。俺はあなたの二倍は、頂きました」
「悔しいっ、香月を超えてやりたい!!」
「むっちゃん、俺のあげようか?」
「そうっすよね、社長はまだ流動食になったばかり。雰囲気でもう食べられたなら、俺が貰……ああああ、結城さん!!」
「木島にやるなら俺が食う!」
「ああ、結城さん酷いっす!! 俺のまで食うなんて」
「見たか真下、香月!! 俺のが一番大きい!! つまり愛情が」
「はいはい。ご自慢の筋肉に、甘味で体脂肪増やさないでね」
「ぐっ!!」
「杏奈、こんなに林檎ゴロゴロのホカホカアップルパイ、初めて食べた~。杏奈が知ってるアップルパイと違って、サクサク~」
「本当にあっさりしてますよね」
「私も作りた~い。主任、レシピ教えて下さいよ」
社長を取り囲んで、アットホームな雰囲気を作る、社員達。
いつもの日常。きっとこれからも変わらない光景。
……あたしは、そこから去るんだ。
もうあたしが作ったものを彼らは食べることがなく、これが最後。
そう思うと、感慨深いものがあり、鼻の奥がつーんとなるのを必死で抑えた。