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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
「社長、ご気分どうですか?」
皆が後片付けをしたり、お茶を淹れてくれている間、あたしは社長に語りかけた。
「ああ。完全看護のおかげで、体調はいいぞ」
笑うその顔は、さらに頬が痩けてしまっていた。
その顔色は、会社に居た時のような肌色には戻らず、どこか色が黒くて紫ばんでいるようで、快調だとはいえない外見だった。
「結城が社長になっても、社長は会長として働いて下さいね。荷物が下りたからと楽観しないで下さい」
「こわっ、カワウソ~、俺を労ってくれよ~」
「駄目です!! 社長はまだまだやるべきことがあるんですから!」
社長は顔に笑みを浮かべていた。
「カワウソは、むっちゃんが社長になれると思うか?」
「勿論!! まだ向島から訴訟取り下げの連絡は来ていませんが、あたしは向島専務が、忍月コーポレーションの副社長と手を切ったことは芝居ではないと信じています。だとすれば、過半数が……」
「……あの副社長が、簡単に引き下がるとは思えん。なんだかんだと忍月コーポレーションは、彼の手で実力主義を徹底したおかげで大きくなり、渉のおかげでさらに拡大したようなもの。あの渉と競える辣腕が、向島に手を切られて泣き寝入りするか。そこが不安でもある」
「………」
「副社長が、うち以外の関連会社などの株主と手を組めば、俺達と渉を合わせたパーセンテージを超える可能性がある」
「でも結城が挨拶に行って、手応えはいいと……」
「……。取り越し苦労であればいいが、若い世代に移り変わることをよしとしない、保守的な年齢層もいるからな」
「それは結城や専務には?」
「言ってはある。だから策は練っているだろうが、もうひとつ……念を入れてなにか欲しい」
カリスマ的な指導者の顔で、社長はそう告げた。
「お前の情熱で、彼女を……落としてみろ」
「彼女?」
「名取川文乃。茶道の名取川流宗家の夫人で、彼女のコネクションはかなり広く、副社長の影響力が大きい」