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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
 

「朱羽。味方は、あたしだけじゃなかったよ?」

 ぶわりと涙を溢れさせて、あたしは朱羽の手を握る。

「朱羽があたし達にしてくれていたことは無駄じゃなかった。ねぇ朱羽。皆を信じてみようよ。シークレットムーンの香月朱羽として、頑張ってみよう? もうあたしを捨てないで? 一緒に戦わせて? なんでもするから」

「……ん」

 感極まったように涙ぐむ朱羽からは、そんな言葉とともに、決意のようにぎゅっとさらに強く手を握られ、彼は何度も何度も深く頷いた。

「朱羽にとってもあたしにとっても、……結城達は家族なんだよ。専務も沙紀さんも。月代社長が呼び寄せてくれたあたし達は、皆……シークレットムーンで繋がった家族で、朱羽を含めた皆でシークレットムーンなんだ」

「ん」

 朱羽は俯きながら鼻を啜っていた。

 結城が朗らかな声で言った。

「じゃあこれはいいな、破って。社長ではないけど、俺が社長代理で破らせて貰うが」

「「はい」」

 あたしと朱羽の返事で、結城によって退職願は破られた。

 びりびりと心地いい音がして、宙に舞う。

 ひとつの鬱屈した事態が去り、あたしや朱羽にとって、見ようとしていなかった皆の心情を、その力を、糧に出来る場面に来たのだと、あたしは悟った。

 なにも解決したわけではない。戦いはこれからであり、あたしの、朱羽の環境が変わっただけのこと。全員で戦う目標が出来たということ。

 泣いている朱羽を見ていると、彼もどんなに心寂しかったのかと推察できる。あたしが不甲斐ないばかりに。

 専務が言う。


「朱羽、お前わかっていただろう。わかっていて、『退職届』ではなく『退職願』にしたんだろう?」

 朱羽は黙っている。

「え、あたしが退職願にしたから揃えたんじゃ? というか、届という書き方もあったの今気づいたんですが、違いはなんですか?」

 専務はにやりと笑った。

「退職願は会社側の合意が必要で撤回が出来るが、退職届は決定事項となる。だから朱羽もまた、想定外のやむを得ぬ事情だったとはいえ、退職することに対して、撤回したいという僅かな希望を置くほどには、シークレットムーンに、お前達に……未練があったんだろうよ」

 朱羽はなにも答えなかった。

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