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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
私もなにも疑いもなく、陽菜も香月もシークレットムーンに居て、私達と共にシークレットムーンを大きくさせて雅さんを安心させようと、力を尽くすものだと、そう思っていたから、だから陽菜のバッグから退職願を見た時は、血の気が引いた。
私達は、彼らが自分のことを話して、私達に相談してくることを望んでいた。少なくとも陽菜は、私達とそうしてきたから、必ずまずなにかあるものと。そうしたら私だって、色々と助言できた。陽菜にも結城にもなにも言ってなかったけれど、それでも香月が置かれた立場がわかるのは、杏奈と……経験者である私だけだと思っていたから。
私達は、専務の助言通り、恐らくは言い出しにくいだろうふたりから、辛抱強く聞き出して、どうすべきか皆で話し合う……そういうスタンスでいたのに、ふたりは既に決めてしまっていた。
あの退職願の存在に、私は無価値だと言われた気がした。
陽菜の一大事に私はなんの役にもたてないとは。
結城もそう思っただろう。奴は香月にも裏切られた形になったんだから。
直接言い出しにくいなら、私じゃなくても結城でもいい。言える相手になんでひと言でも、その気持ちを吐露してくれなかったのか。
なんのために携帯電話がある。なんのためにメールが、LINEがある。
杏奈と向島専務との一件で、杏奈を励まして向島専務に怒っていた陽菜と香月が、杏奈を取り戻すためにした言動すべてが、流した涙ですら、茶番に思えるじゃない。退職願を見た杏奈の顔、あんた達見てないよね?
仲間仲間といいながら、大事なことはなにひとつ相談しないこのふたりを、真実の仲間だと思っていた私達の心はどこに向かえばいい。
怒りが湧いた。悲しくてたまらなかった。
だけど、結城はその気持ちを呑み込んで、私達の存在をわからせた。私の怒りすら、結城は抱えてくれた。
私がどんなに営業の仕事をとっても、こういうところが結城には敵わない。彼が課長の肩書きを持っているのは、雅さんに認められているのは、その仕事ぶりだけではないのだと、結城の凄さを目の当たりにした。
雅さんの会社を守る社長に相応しいと、本当に思った。
この頼もしさ、その懐の大きさ。
この男に、社員の……私の命も預けてもいいと、そう思った。