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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
「皆、聞いてっ!!」
吾川さんと戻ってきた杏奈が、溌剌とした声を出した。
「向島、訴訟取り下げたって!!」
「本当か!?」
「うん。ネット記事、向島に関する記事があったら杏奈のスマホに流れるようにしてたの。ちょっと待ってね」
杏奈は私の横にある分厚い、まるで軍事用のようなごついノート型パソコンでなにやらカタカタと音をたてた。
「よし、これ!!」
私は身体を傾けて画面を眺めた。
『向島開発、訴訟を取り下げ』
そんなネット記事の見出しが見えた。
結城が駆けてきて、杏奈と私の間の真っ正面から、画面を覗き込んだ。不意に触れそうなところに顔があり、驚いて私は離れる。
そこに木島の顔(厳密に言えば分厚い唇)があり、私はまた仰け反る。
「やったっすね、真下さん!」
なんだよ、心臓に悪いよ。
香月が私のポジションを奪い、画面を覗いた。
「……。ネットが先ですか」
「なんだかさ、こっちに最初に電話くれねぇのって、向島専務の精一杯の抵抗のような気がしね?」
「同感です。まあそれでも、株主総会の前に取り下げてくれたんですね、この記事が正しかったら、ですが」
その時、「おお牧場はみどり」のメロディーが鳴り、爽やかさとは無縁の木島がそれを取り、声を上げて泣き出した。
「うおおおおお!!」
……本当にこいつは、顔芸も出来そうなほど表情が豊かだ。
どこかの御曹司とは全く逆で。
「今、親父から電話きたっす! 訴訟取り下げたと親父の方に、正式に通知がきたっす! それで和解に応じると!!」
「おめでとう! 私、渉に伝えてくる!」
目を擦りながら消える吾川さん。
「やったああああ!」
結城は、無理矢理掴んで上に向けた香月の手のひらに、無理矢理パチンと手を叩き、そして奴は木島の手も叩き、木島が杏奈の手を叩いて、杏奈が私の手を叩いた。
輪にはなったが木島。なんで隣にいる私の手ではなく、私の方が近い杏奈の手を叩いた?
「あれ、香月ちゃんなにを見てるの?」
「……はい、トレンドタグの一位が"迷い猫"だったんで、覗いてみたら」
「みたら?」
「見覚えあるネコでして」
香月の眼鏡のレンズが光った。
「幸運の白ネコならいいなと」
なんだそりゃ。
陽菜の恋人は、おかしなことを言った。