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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
 

 木島くんが、朱羽をフォローする。

「そうっすよ、動けませんよ。明け方にかけて何度か雨降りましたっすし。雷鳴轟いてざあざあ……え、課長は気づきませんでしたか? 朝方は晴れてたっすが、あれだけ凄い降りで?」

 朱羽は何度か咳払いをして、詰るようにちらちらとあたしを見た。

 え、朱羽が気づかなかったのはあたしのせい!?

 マンションが防音設備がいいせいじゃ?

「そんなに雨が降ったのなら、小さなネコだし、びくびくして震えていそうです。俺は、まだあそこ周辺にいると思う」

 さすがはネコのスタンプを使うほど、ネコの気持ちがわかる男だ。

「ちょっとあたし見てくる。自己満足でもいいから、探してきたい。もしかすると居るかもしれないのに、見殺しには出来ないよ。電車で行ってみる」


「陽菜、私も行く!」

「俺も」

「杏奈も!」

「俺も行くっす。あ、吾川さん、いいところに来た。ネコ探しに行くんで、社長よろしくっす!」

「はい!? ネコ探し!?」

「渉さん。あのパソコン見ていて下さい。幸福の白いネコなら、きっといいことがあると思いますので。正解か不正解かはまたご連絡します」

「え、おい、朱羽……」

「では、行ってきます」


 皆で乗ったエレベーター。

 1階で降りた時、木島くんがすぐ横にあるトイレに行きたいと言いだし、結城と衣里、杏奈も追従した。

 あたしと朱羽がぽつんと残る。

 朱羽がすっと傍に寄った。ふわりと漂う朱羽の匂いの中、彼は言う。

「……ごめん。もう二度と言わないから、許して」

 切なそうな視線が、あたしに落ちた。

「結城さんのおかげで、目が覚めた」

「少し腫れたね……」

 頬に伸ばした手は握られ、唇を奪われた。

「あなたの幸せのあるところが、俺の幸せだ」

 朱羽はふっと笑みを零した。そこには迷いはなく。

 たまらなく抱きつきたい衝動に駆られた時、トイレの扉が開く気配がして、慌てて離れたあたし達は、互いに顔を背け合って、濡れた唇を拭う。

「よし、じゃあにゃんこ探しに行こうか!」

「俺、他の社員にも連絡しておいたっす。現地集合で」

「でかした! 木島」

「全員で、絶対見つけるよ~」


 ……最後列、密やかに視線が合うと、朱羽は顔を傾け、唇をキスの形にして艶めかしく笑う。

 いまだ魅惑される、最愛のひと――。
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