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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
 

「帰るわよ、懸賞金は取り下げて」

 踵を返すようにして背中を向けた女性と、気の毒そうな顔をしてぺこりと頭を下げて車に向かう、運転手と老婆。

 あたしは――、


「待って下さい!! なんなんですか、このお金!!」

 腹の底から憤った。

 女性は頭だけこちらを振り返る。


「懸賞金よ。だからそんな姿になるまで、ネコを探していたんでしょう? もしかするとあなたも他の奴らみたいに、偽者を本物のように仕立てたかもしれないけど、そこら辺はあなた達のその姿を哀れんで、お金はやるわよ」

「いりませんよ、お金目当ての連中と一緒にしないで下さい!!」

 あたしが叫び、結城も言った。

「俺達は、心臓病の老婆を助けたい一心で探しました。偽物を掴まされている飼い主が可哀想で。お金目当てではありません」

「あらそ。行くわよ」

「……家族じゃないんですか!?」

 あたしは声を張り上げた。

「家族だから探していたんじゃないんですか!?」

 いまだあたしを見るとぶるぶるする憎たらしいネコだけれど、それもこの飼い主の根性悪に似たのだと妙に納得できる部分もあるけれど。

「家族に、会いたくても会えないひとだっているんです!! あなたにとっての家族だったこの子を、悲しませる気ですか!!」

 杏奈が横に立って頭を下げた。

「親の都合で捨てないで下さい。お願いします」

 衣里も頭を下げた。

「この子は、親の道具ではないんです」

 切なく思えるほどの真摯な声音に、女性はため息をついた。

「そのネコを、あなた達は知っていたの?」

 朱羽が言った。

「昨日、ここ付近で見かけて危ないからと移動させました。それでネットで迷い猫の記事が出ていたのを見て、いてもたってもいられず、社員全員で駆けつけました」

 なんだか少し誇張されているような気もするが……。

「飼い主の笑顔を見たいために、社員は皆、身体を張ったんです」

 朱羽の悲痛にも聞こえるその声に、女性は笑う。

「たかがネコよ?」

「されどネコです」

 あたしは言った。
 
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