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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
そして響く、朱羽の柔らかな声。
「ああごめんね、お前を放置して。ほら、怒らない。……ははは。こら、舐めるな。くすぐったいじゃないか」
……断じてあたしは舐めていない。
朱羽のお顔をぺろぺろしているのは、あの性悪色惚けネコだ。
なんで朱羽もあんなに嬉しそうな顔をするのよ、「なにするんだ!」といつものように冷視線で、ネコを凍らせなさいよ。
むかつくな~!!
あたしの尖った口が、無自覚で曲がる。
「くそっ、こんな顔をさせる香月に妬ける!!」
「結城さんどんまいっす」
「陽菜を妬かせたい確信犯に対抗してどうするの。ええと、道は合ってるかしら?」
「杏奈のスマホナビはばっちりだよ!」
そんな集団の言葉はあたしに届かず。
どうせお前は朱羽に離されるんだ。今だけの幸せ感じてなさいよ……などと思いながらも、もしかしてあたしだってネコと同じ立場かもしれないと、ひとり赤く青くなりながら、目的地に向かった。
名取川文乃の家は、黒い瓦屋根の平屋がどこまでも続く……ゆうに三百坪はある、純和風のお屋敷だった。
「名取川」という表札がかかった門構えは、ドラマによくあるヤクザのお屋敷のようにしか思えないあたしに、朱羽があのにっくきネコの喉元をまさぐりながら言う。
「数多くある茶道の流派のひとつ名取川流の家元家族と、その弟子がこの家に住んでいるという。文乃夫人が前代家元のひとり娘で、前代は男子に恵まれなかったため、文乃夫人の夫が入り婿で家元を継ぎ、実質文乃夫人が名取川流トップとも言える。名取川流は、首相や官房長官クラスの多くの官僚や財閥など上流界の男子に、文乃夫人が直々に稽古をしているらしく、茶の道から訓示を与えているらしい」
「あ……、忍月コーポレーションの副社長もしてたの?」
「ああ。忍月には名取川文乃は関わっていなかったのを逆手に、その勢力を取り入れようとして、失敗。彼女には頭が上がらないはずだ」
「だから、社長、彼女を落とせと……」
「月代社長がそんなことを?」
朱羽は社長から聞いていたから、名取川情報があったわけではなかったらしい。さすがは、忍月財閥の次期当主に推されているだけあるのか。