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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
 

「あれ、朱羽は?」

「ああ、あいつ……ふたり分乾かしてるからな……って、出てきた。おい、香月。大丈夫か?」

「遅くなりました。はい、大丈夫です」

 最後に出てきた朱羽は白い浴衣で、紺地の帯をつけている。眼鏡はつけており、理知的な美貌を純白色に反射させながら、膨張色のくせにすらりとして。

 立ち振る舞いも優雅で気品があるのに、ドライヤーで乾ききっていない髪先がしっとりと濡れていて、紅潮した肌が艶めかしい……そんなエロい生物が、あたしを見ると目を細めて、ふっと微笑む。

 漂うイランイランの芳香に、くらくらしているあたしは見た。

 朱羽の胸元からぴょこんと顔を出した、白いネコを。

 見事に純白になった、ふさふさと揺れる毛並みから漂うのは、朱羽と同じ甘い香り。

 少し前奴は……あたしを隠すために移動した朱羽を追いかけてきて、哀切極まりない鳴声を響かせ、朱羽の足を止めさせた。

 みゃ~ん、みゃ~ん。

 ……そして。あたしは、男子更衣室に入れないというのに、みゃーみゃー媚びて朱羽の気を惹こうとする狡猾な奴は、朱羽と共に更衣室に入り、朱羽に身体を拭かれ、ドライヤーで乾かして貰って。

 ……昨夜、あたしにして貰ったことを独占した"奴"は、朱羽の匂いをあんなに近くで嗅ぎながら、我が物顔であたしを見た。

「みゃ~(ふふん、いいでしょう)」

 ひくりと、あたしの頬肉が引き攣った。

「みゃ~(彼は渡さないわよ、このメス豚!)」

 眉間に皺が刻まれた。

「みゃ~(彼は私を選んだのよ)」

 あたしは、いつの間にかネコのようにふーふー唸る。


「……鹿沼、相手はみゃーみゃーしか鳴かないネコだぞ?」

「主任の脳内変換、覗いて見たいっす!!」

「見る前にわかるでしょ。そんな陽菜を見て、あの香月の嬉しそうな顔」

「……いいなあ、香月」

「どんまいっす、結城さん」
 
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