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薔薇が燃える
第1章 今夜は雨になるだろう
フロントで、志水がチェックインの手続きをしている間、奈保子はロビーのソファーに座って彼を待った。
ロビーは六十坪ほど。装飾はシンプルで、カントリーの趣きがあった。もともとホテルとして建てられたというより、誰かが所有していた大きめな別荘をホテルとして使っている。そんなふうにも思えた。
六月上旬。まだシーズン前で、ロビーはガランとしていた。今日は、自分たち以外の宿泊客は、いないのかもしれない。と、奈保子は思った。
やがて、志水がチェックインを済ませて戻って来ると、奈保子は彼とエレベーターに乗り込み、客室へ向かった。
海に面した室内は意外に広くて、天井と壁紙は淡いブラウンに統一されている。シワひとつない薄いベージュのシーツのダブルベッドも、奈保子は気に入った。
部屋にはベッドの他に、簡素なクローゼット。アンティークなライティングビューロー。他に目立った装飾は、とくになかった。
部屋に入った奈保子は、持っていた大きめなトートバッグを、ベッドの足元に置くと、そのまま窓に歩み寄る。
窓ガラス越しに見渡せる海は、褪めた灰色に広がり、細かい波立ちを刻んでいた。同じ色合いに溶け、低く垂れ込めた雲は、その境目を無くしていた。