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砂の人形
第3章 過去の残り火
 とんでもない肩すかしだった。立ち上がる準備までしていた私は、肘掛に両手をついたまま凍りついた。見物席に並んだ人々が、一斉に頭をめぐらせて「黒髪の美しいモスリーン様」を探した。王族で黒髪は、私だけだ。

 二つのことが私の中をかき乱していた。一つは、テルベーザが私への口づけを望まなかったこと。もう一つは、髪の毛。テルベーザは、心から私の髪を褒めたんじゃなかったんだわ。この時のため、闘技会で私を目立たせるために。

 もちろん、テルベーザの意図が分からないほど馬鹿じゃないわ。いわゆる豪族の集まるこの会で私の存在を強調しておくことが重要なことくらい理解できる。特に、通例とは異なる上奏を通せば、お父様の私への寵愛ぶりも周知させることができるかもしれない。

「それは、闘技会の上奏としては異例だな」

 お父様は満足そうに笑っていた。お父様も、この時を待っていたのかも。

「だが、私の大切な「希望の王女」に侍女がいないのはおかしなことだ。君の上奏を受け入れよう」

 希望の王女。その言葉に辺りはざわめいた。
 詳しいことは知らないけれど、星読みのエピス族が私のことをそう呼んだと聞いたわ。一方、お父様は凶勢の予言を受けた。だからお父様は私に特別甘くて、それが義母様や義兄弟からの反感を買った。そして私は黙殺された。ざわめきの端々で「亡くなったものだと思っていた」という言葉が聞こえていた。
 そして私の視界には好奇と媚態でいっぱいの視線が飛び込んできて、埋め尽くされた。
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