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砂の人形
第3章 過去の残り火
「とにかく、消毒もしたし、大きな傷は縫いました。後はくっつくのを待つだけですから、ご心配なく」
「そう。まあ、思ったよりは元気そうだから安心した」
「よかった。さ、後宮までお送りします。服を着るまで待っていてください」
「無理よ。もう日が射してるし。暮れるまでここで眠るわ」
「ダメです。王女ともあろう方がこんな薄汚いところに来るだけでもまずいのに」
「平気よ。私は気にならない」
「お嫁にいけませんよ」
「めとる人がいないんだからいらない心配よ」
「これから申し入れが殺到するんです」

 さっさと服を着るなり、テルベーザは廊下へ出てしまった。
 取り残されると、急にみじめな気持が襲ってきた。テルベーザの怪我を見てすっかり忘れていたけど、私は闘技会のときの衣裳のままだった。人の容姿を誉めそやすような人じゃないのは知っているけど、一言くらい、何か言ってくれるんじゃないかと期待していたのに。振り払われた手を見下ろしていると、外からテルベーザの声が聞こえた。

「日よけはありますか? よければ僕のも使ってください。顔だけじゃなく、手も気を付けてくださいね」

 できる限り、肌を焼かないように……一体誰のため? 私は自分の肌が黒かろうが青かろうか気にしない。ねえ、誰のために気を使っているの? 闘技会で私を着飾らせたのは何のため? 少なくとも、あなたのためでないってことはよくわかった。じゃあ何のために、あなたはこんなことさせるの。

「ここで昼をやり過ごせば、日焼けの心配はないわ」
「……ここはあまり清潔ではありません」

 医務室の床で粘る私に根負けして、テルベーザは戻ってきた。いや、彼は私の心を折りに来たんだわ。強い口調に、真一文字に引いた口。私が駄々をこねたって、彼はいつもその怒ったような態度で私を屈服させる。いとも簡単に。

「後宮へお戻りください、姫様」
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