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砂の人形
第3章 過去の残り火
 それ以来、テルベーザはますます私から遠のいた。私の世話は新しい侍女に任せきりで、暮れと明け方に挨拶にくるだけになった。そして私は。彼にどう接していいのか分からなくなっていた。

 退屈な家庭教師の話の最中や、寝台で横になっているとき。不意に指先に、テルベーザのぬくもりが蘇ってくる。どうかすると全身に広がって、責めるように煮え立つの。テルベーザの肌……暖かかった。腕を伝って、全身を溶かしていくような。そう、私ぜんぜん気づいてなかった。これまでの自分の体が、心が、凍りついていたこと。一度溶けてしまえば、私の気持ちは自由になって、一直線にあなたに向かって飛んでいく。だけど……それをあなたが受け取ってくれない気がして、どうしたらいいのか途方に暮れていた。

 そうするうちに、アルムカンの貴族や豪商、鉱山持ちの息子たちから次々に縁談が持ち込まれて。結婚したら、騎士は連れて行けないとお父様に言われた。だから全部断ってた。そしたらついに、ペテ様からお話が来た。

 ルニルカンの第二離宮を治める方なんて、断れるはずがない。ペテ様は、本当に優しくて紳士的な方だったし。お父様もすごく喜んでらしたし……その日の明け方、挨拶に来たテルベーザも。私の結婚に肯定的だった。

「おめでとうございます。文句なしの相手です。粘り勝ちですね」

 彼は何も変わらない。いたっていつも通りの口調で、そう言った。

「まだ、返事はしてないわ」
「焦らしているわけですか。姫様も駆け引きしたりする年頃なんですね」
「いいえ。お断りするつもりよ」

 せめてそう言ってやれば、慌てるのかと思ってた。でも彼は全然涼しい顔で、私を見下ろしていた。

「それは勿体ないですね……僕としては、ほっとしましたが」
「どうして?」
「あなたが結婚しなければ、カアラと別れずにすみますから」
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