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砂の人形
第3章 過去の残り火
 その時は、カアラへの嫉妬で頭がいっぱいだった。だから忘れてた。義母様たちが、ペテ様との婚約をよく思うはずがないってことを。

 義母様たちにとっては簡単なことだった。お金で雇った男をこっそり後宮へ忍び込ませて、私を襲わせる。後宮の個室には鍵はついていないし、廊下の見張りは簡単に買収できる。もし私が大きな声を出したとしても、せいぜい騎士の寮までしか聞こえない。侍女の寮の方が遠いから……テルベーザがカアラに会いにいっていれば、私を助けてくれる人は誰もいない。

 昼前ごろ、顔を隠した男が堂々と私の部屋に入ってきた。抵抗することもできなかった。男の体はとても大きかったし、片手で私の両手を押さえつけるほど力が強かった。寝台の上で乱暴に体をまさぐられると、怖くて声も出なかった。それに。このままひどい目に合わされたら、結婚できなくなるから。それもいいかもしれないと思った。テルベーザと離れずに済むし……ひょっとしたら、テーゼは同情してくれるかもしれない。だから、ちょっとの間、この冷たいおぞ気を我慢したらいい。そう本気で思った。

 それでもやっぱり。下腹を弄られながら生暖かい舌で胸の先を舐められたら、全身の毛が逆立った。嫌悪感は冷水のように鋭く広がった。肺が勝手に深く、息を吸い込んでいた。もう悲鳴をこらえることもできなかった。

「そこで、何してる!」

 私が叫ぶより先に、テルベーザが怒鳴り込んできた。私を嬲るのに夢中になっていた男は一瞬息をのんで、それからすぐに窓から飛び出していった。
 テーゼは。迷いなく、私に駆け寄ってくれた。

「姫様!」
「やだっ……!」

 今更、大きな声が出た。テルベーザの声を聞いたら、急に喉のこわばりが取れて。それに、頬に熱いものがこぼれてきた。涙だ。そういえば、さっきまでは全然出てなかった。
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