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砂の人形
第3章 過去の残り火
 だって、さっき、とても恐ろしかった。あの男が私の体を乱暴に組み敷いた時も。服を剥いで、肌に触ってきたときにも。すごく気持ちが悪くて、体中が冷たい金属になったみたいだった。きっと、ペテ様のときにも同じように感じるんだと思う。

 テーゼは違う。さっき力いっぱい抱き寄せてくれたときも、今、肩に触ったときも。そこから伝わってくるのは温かさだけで、私はその熱が愛しくてたまらない。私はこの人しかいらない。

「ねえ、テーゼ」

 私が握りしめた手は、握り返してはくれなかった。テルベーザ。今、どんな顔してる? 何を考えてる? 私に触れているとき、あなたは、温かいと感じてくれている? でも恥ずかしくて、とても顔なんか見られない。

「結婚……できないようにして」

 私の頼みなんか、この人絶対聞かないのに。私が絞り出すように言うと、テルベーザは私を寝台の上に押し倒した。強く背中を打って、息が止まる。思考も止まった。時間も止まればいいと思った。首筋に、テルベーザの唇の湿り気を感じる。さっきより荒くなった呼吸が耳の裏に触れる。無骨な指が。背筋に沿って腰へ向い、お尻を掴む。そのまま腰を抱えあげられたら。テルベーザの熱が、私に触れた。

 そしたら、ずっと抑え込んできた気持ちが溢れた。テーゼの背中に腕をまわして、汗ばんだ首筋に何度も名前を呼びかけた。切なくておかしくなりそう。体中が熱くて、下腹がねじ切れるように痛んだ。

「姫様」

 彼の指が、私の顎を捕えた。促されるまま顔を上げ、すぐ目の前、テルベーザの前髪が額に触れるほどの距離で見つめ合う。私の奥の方まで照らしてくるその眼差し。それはすごく心地いいのに、たまに不安になる。あなたは私の深いところまで食い込んでいるのに、私には、あなたが何を考えているのか、どう思っているのか、いつも分からないから。

「できません」

 長い沈黙の後、テルベーザはそういった。

「馬鹿げてます、そんなこと」
「どうして?」
「どうしてって……理由なんか挙げればきりがないでしょう」
「カアラのため?」
「それは、あまり大きな問題じゃありません」

 それからゆっくりと、テルベーザは起き上がった。彼の重みや体温が離れると、私はまた、自分が冷たくなっていくのを感じた。
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