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砂の人形
第3章 過去の残り火
「嫌な思いをして、自暴自棄になっているんでしょう。大丈夫ですよ。暮れまで僕がここにいますから。安心してお休みください」
「結構よ。カアラを待たせているんでしょう。早く戻ってあげたら?」

 そんなことしてほしくない。
 あんなことがあった直後なんだから。テルベーザがいなくなった途端、またあの男が戻ってくるかもしれないし……それだけじゃない。カアラに会ってほしくない。カアラに……あんな風にしないで。さっき私にしたみたいに。

「姫様」

 テルベーザは深い溜息をついてから、壁際の長椅子に座って腕を組んだ。

「あまり嫉妬深いと、ペテ様に呆れられますよ」
「あ……あなたには関係ないでしょ!」
「ええそうです。僕とカアラのことも、姫様には関係ない。お互いに口を出さないことにしましょう」

 かっと顔が熱くなって、涙があふれた。自分から投げつけた言葉に傷つくなんて、みっともなくて余計に悲しくなってくる。せめてテルベーザに見られないように、私は布団を頭からかぶって目を閉じた。でもちっとも眠れないまま日は暮れて、その間テルベーザはずっと長椅子から動かなかった。

 それからしばらくして、テルベーザとカアラが一緒にいるところを何度か見かけた。それだけじゃなく、他の女中と一緒のところも。親しげに、腕や腰に手を回してどこかへ歩いていくところ。
 わざと私に見せた。理由は分からないけど、そんな気がしていた。

 ちょうどその頃から、お父様は少しずつおかしくなった気がする。あの変な双子がやってきて……怪しい商人が出入りするようになった。そのうち、ペテ様の訪問もなくなった。突然理由もなくカアラに暇を出して、そして、私とテルベーザにおかしな行為を強いるように。

 良くないことが起こる気がした。とても悪いこと。それをなんとか止めてみせたら、テルベーザ。あなたちょっとは私のこと、見直してくれるかしら。いつも子供みたいにわがままで、あなたを困らせてばかりいたこと、これでも後悔してるから。
 せめてあなたとの約束だけは守って見せる。
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