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砂の人形
第4章 ほころび
「触らないで。またお父様の命令なの? 今度は何? 私を説得するために抱けとでも言われたの?」
「そんな……」
「じゃあ何? 私ならいつでも好きなときに抱けるとでも思ってる? ただお父様の命令だったから従っていただけなのに!」

 それ以上聞かされたら、何をしてしまうか分からない。僕は言い募ろうとする姫様の口をふさごうとした。姫様が無理やり口を開こうとするから、その唇の間に、指が滑り込む。寝台の上にいるときみたいに。欲しがる時には舌先で媚びて甘噛みしてくるくせに、果てる時には遠慮なしにきつく歯を立てる……そうさせているのが自分だと思うと。苦しいくらいに満たされた気持ちになる。

「……あの……」

 口を覆って黙らせてしまうと、砂漠の沈黙が重くのしかかってきた。腕の中で熱く脈打っている姫様に、何を言ったらいいのか分からなくて。

「サルーザ様は関係ありません。僕は僕の意思で行動しています。今も……これまでも」

 そんなこと今更言っても仕方ない。サルーザ様の命令を掲げて傷つけたのは、僕が先だった。

「取り乱してすみませんでした。忘れてください」
「……都合いいのね」

 じっとしている姫様を解放すると、彼女は目を伏せてつぶやいた。それからふと、手綱を握る僕の手に視線を移す。

「震えてる」

 それからおずおずと、姫様の指が僕の手に寄り添う。それは、あの晩のことを思い出させるから。僕は振り払った。

「あなたの啖呵が怖くて」
「よくそんなことが言えるわね」

 姫様は呆れた口調でそう言って、また前方の砂の平原を見つめた。

 別に茶化したつもりはなかった。姫様の言動は一々僕に揺さぶりをかける。全部捨てていいほど欲しくなったり、そうかと思えばとても神聖に見えて、触るのもためらわれるくらいに感じたり。
 ともあれ、僕は今日もこの人を汚すことはできなかった。それでよかったんだろう。ずっと前から決めていたはずだ。今以上にこの人を孤独にさせることは絶対にしない……この人のことを望んでくれる誰かを見つけて引き渡すと。
 そんな男、いなければ良かったのに。
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