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砂の人形
第4章 ほころび
 それでどうするつもりだ? 前にこの人が言ったように、結婚できない体にしてやるのか。それで? 隠し切れることじゃない。先方にバレてしまえば、僕はもうアルムカンにはいられない。姫様だって出戻ることになるだろう。そしてまたあの後宮で、暗い日々を過ごすことになる。一生だ。それこそ、姫様は毎日泣き続けるだろう。あんなに一人でいるのを嫌っていたんだから。
 僕が姫様を抱くというのは、そういうことだ。この人の未来を全部壊すということ。

 なのに僕は今、それを望んでいた。奪われるくらいならその方がずっとマシに思えて、強引に引き寄せた姫様の柔らかさに腰を擦り付ける……それでも、僕の体は反応しなかった。暮れ方の行為から、あまり時間が経っていないせいだ。

「ちょっと……どうしたの、急に」

 咎めるような口調は上ずっているようでもあって。腕の中でもがく姿は、よがっているようにさえ感じられる。

 僕はいつも思っていた。婚約や、毎日の行為で歪んでしまったけれど、姫様はまだ僕を思ってくれていると。決して口にはしないけれど、僕に抱かれて体以外の喜びも感じていると、自分に都合がいいように信じ込んできた。僕を求めてくれていると。

 だからあの駱駝を見つけたときには胸がざわめいた。恐怖に近い感覚が足元から這い上ってきた。全部僕の思い上がりだった。いつの間にか姫様は、僕から離れる準備ができていた。僕はまだ、こんなに未練があるのに。

「それはこっちの台詞です。全然乗り気じゃなかったでしょう」

 あなたがいつも会いたがったのは、話したがったのは……抱かれたがったのは、僕だった。それを思い出してほしくて。それに、萎えたままの自分をどうにかしたくて。姫様の砂避けの下に両手を滑り込ませる。

「やめてっ!」

 鋭い悲鳴に、僕の手は止まった。どうして。いつもあんなに気持ちよさそうにしてるのに。監視のない今ならもっと良くしてあげることもできるのに。拒まれた事実を前に、僕は動けなかった。
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