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砂の人形
第9章 耳をふさいで
「なんだか、思ってたのと違うわ」

 夕闇が濃さを増し、下弦の月が鮮やかに浮かぶ夜。ようやくたどり着いたオアシスを見て、姫様はそう呟いた。

「どんなのを想像していたんですか?」
「そうね。ちょっとした木陰があって、木には花なんかもついてて、大きな湖があって……」
「そういうのはおとぎ話のオアシスですよ。ルニルカン近くの観光地になら、そういうところもあるかもしれませんが。現実はこんなもんです」

 そういう僕らの目の前にあるオアシスは、実に一般的なものだった。

 緩やかにくぼんだ砂地と、その底に、わずかに染み出した水。湖というよりは水たまりだ。姫様は水浴びを期待していたようだが、現実的に、オアシスで水浴びなどは厳禁だ。貴重な水源を人の体で汚すような行為は許されない。桶で汲んだ水で足を洗うくらいはいいかもしれないが、それだって人目のある場所では反感を買う。一人が多く水を使うことで、次の旅人の水が減ってしまうからだ。

「ルニルカンの領地へ入るまでは、水浴びは諦めてください」
「わかった」

 不服そうに頷くと、姫様は水筒に水を汲み始めた。僕も天幕の支度をはじめる。少し早いけれど、明け方まではここで休むつもりだった。

 この休憩が長くなるのは、始めから予想していた。いや、意図的にそうしたんだ。昨日はわざと移動時間を多くとって備えていた。ここでゆっくり、姫様を説得するために。

 ルニルカンへ行ったって、戦争を止めたって、姫様は幸せになれない。立派な王女になりたいだなんて、所詮は異母兄弟たちへの当てつけであって、姫様の本当の願いじゃない。それより、僕について来て。王女らしい生活はできなくなるけど、毎日、僕がお姫様みたいに扱うから。あなたが欲しがった言葉を何回でも聞かせてあげるから……だから、僕のものになってください。

 そう伝えるつもりだった。でももうやめた。
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