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砂の人形
第9章 耳をふさいで
 僕が焦りすぎてただけなのかもしれない。単に姫様が脆弱すぎるだけかもしれない。とにかく、砂漠に出てたった二日で、姫様は倒れた。幸い外傷もなく他に症状もないとはいえ、倒れ方が悪ければどうなっていたか分からない。やっぱり僕には、この人を守ることはできないんだろうなと思った。間が悪かったとか、浮かれて油断していたとか、そういう問題じゃなくて。そもそも姫様は、僕と砂漠暮らしできるようには出来ていないんだろう。そんなこと分かっていたはずなのに、姫様が僕を求めてくれたから、僕はただ嬉しくて、なんでもできるつもりになっていた。でも違った。僕は無力だ。

「テーゼ」

 姫様が戻ってきて、僕に水筒を差し出した。天幕の枠を下ろして受け取ると、姫様も隣に座った。

「他に手伝うこと、ある?」
「ありませんよ。砂でも浴びて食事を取ったら眠ってください。疲れていらっしゃるようだから」
「一緒に浴びないの?」

 水筒に口を付け、時間をかせぐ。

 もちろん、姫様が倒れるまではそのつもりだった。姫様が同意してくれるなら、それだけで終わらせないつもりだった。だけどもう、全部が変わってしまった。圧倒的な砂漠の空虚が、僕の熱も夢も全部、吸い込んでしまった。僕に残るのは結局、この渇きだけ。

「……さっき倒れたばかりでしょう」

 理由としては十分だろう。姫様もうつむいて、何度か頷いた。

「そうよね。ごめんなさい、こんなにすぐに体調を崩してしまって」
「僕の言うことを聞かないからですよ」
「ごめんなさい」
「いいから、今日は早く休んでください」

 怒っているように聞こえただろうか。きつい口調で言えば、姫様は大体従ってくれる。弾かれたように視線を逸らせて、あの黒目がちな瞳にいっぱい涙を浮かべて。
 本当はそんな顔させたくない。だから早く、優しい男のところに嫁いでもらわなきゃ困る。
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