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砂の人形
第2章 パレードの夜
 何の言葉も交わさないまま、僕らは大階段を降り、正面広場へ向かった。姫様以外の王族は出払っているのに、広場はたくさんの駱駝、水瓶を積んだ山車、踊り子たちが残っている。誰よりも絢爛なお輿、生花を敷き詰めた飾り傘、孔雀の扇は、全て姫様のため、サルーザ様が準備されたものだ。この寵愛ぶりが他の王妃たちの反感を買うことを、どうして理解できないんだろう。

「今年の山車は気に入ったか」
「お父様」

 姫様がお輿に乗り込むと、サルーザ様が広場へ降りてこられた。三人の大臣と、それに、青と緑の礼服を着たグリゴーとゴリゴーも一緒だ。

「とても素敵です。私なんかにはもったいないです」
「構わん。お前は「希望の王女」だ。国民が許すなら、お前を次期女王にしたいくらいなんだから」
「サルーザ様は、それはそれはモスリーン様がお気に入りですからなぁ」
「黙りなさいグリゴー」

 割って入ってきた陰気な笑い声に、姫様は顔をしかめた。

「あなたなどに言われなくとも、分かっております」
「それならよい。グリゴー、ゴリゴー、モスの支度を手伝ってやれ。それから、テルベーザ」
「はい」

 サルーザ様は、僕を呼んで一同から少し離れた。姫様が、今どんな顔をしているのか。怖くて振り返ることもできず、僕は黙ってサルーザ様の後を追う。
 話し声が聞こえない程度に離れて、ようやくサルーザ様は僕を振り返った。サルーザ様はあまり表情が豊かな方ではない。いつも平たい額に深い縦ジワを寄せ、何か考え込むように、薄い唇を噛み締めている。切れ長の目は暗く憂いをおびていて、首筋で束ねた白髪交じりの黒髪と相まって、実際の年齢より老けて見えた。

「回数を増やせと伝えたろう」

 サルーザ様は唐突にそう言い放った。僕は慌てて姫様たちを振り返る。お輿に乗り、数人の下男に担がれた姫様は、ゴリゴーの差し出す果実を無表情で受け取っていた。こちらの声は聞こえていないようだった。
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