この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
潮騒
第8章 正一郎の過去 ー引潮ー
笑ったはずなのに…
いきなり正一郎にぐっと抱きしめられる。
「すまん…菊乃…お前を泣かしたかったんやない…」
菊乃の顎を支え、そっと上を向かせた状態で、正一郎が菊乃の頬を拭う。
「お前やから、この家で嫁としてやって来れた…タエにも、チヨにも、お袋にも負けん。お前はええ嫁や。きっとトキエには、この家の嫁は勤まらん…」
正一郎の身体が、ふっと離れる。
「…出て行かんとってくれ…トキエのことは忘れる。」
「信用できん。」
「忘れる!この通りや、頼む!」
布団の上に両手をつき、正一郎が頭を下げた。
菊乃は思いもよらぬ光景に目を瞬かせる。
「ホンマに、忘れられるん…?」
「忘れる!」
「男に二言はないな?」
「ない!」
菊乃はそっとその手に触れた。
おずおずと顔を上げた正一郎の首に腕を回し、唇を重ねた。
正一郎の腕が菊乃を掻き抱く。
「私だけや、って言うて?」
「お前だけや。俺には、お前しか居らん。約束する。」
「二度目はないで?」
「あぁ…わかっとる…」
蚊帳の中、ふたりの身体が重なった…
いきなり正一郎にぐっと抱きしめられる。
「すまん…菊乃…お前を泣かしたかったんやない…」
菊乃の顎を支え、そっと上を向かせた状態で、正一郎が菊乃の頬を拭う。
「お前やから、この家で嫁としてやって来れた…タエにも、チヨにも、お袋にも負けん。お前はええ嫁や。きっとトキエには、この家の嫁は勤まらん…」
正一郎の身体が、ふっと離れる。
「…出て行かんとってくれ…トキエのことは忘れる。」
「信用できん。」
「忘れる!この通りや、頼む!」
布団の上に両手をつき、正一郎が頭を下げた。
菊乃は思いもよらぬ光景に目を瞬かせる。
「ホンマに、忘れられるん…?」
「忘れる!」
「男に二言はないな?」
「ない!」
菊乃はそっとその手に触れた。
おずおずと顔を上げた正一郎の首に腕を回し、唇を重ねた。
正一郎の腕が菊乃を掻き抱く。
「私だけや、って言うて?」
「お前だけや。俺には、お前しか居らん。約束する。」
「二度目はないで?」
「あぁ…わかっとる…」
蚊帳の中、ふたりの身体が重なった…