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茜色の空に
第10章 失われた時を求めて
あれから、倫子を忘れるためには誰かと無理矢理身体を重ねたりすれば、思い出にできるんじゃないかと思って、見知らぬ誰かと身体を重ねたりもした。

この容姿にこの身長があれば、正直誰かと身体を重ねるのなんて何よりも簡単な事だった。

あれほど性にだらしない母親を毛嫌いしていたのに、その血がやはり俺にも流れていると思うとぞっとして、行為が終わる度に俺はこのまま命を絶ってしまおうかという衝動に駆られた。

その度に、俺を踏みとどまらせてくれるのは倫子の忘れないあの笑顔。

20歳の時、永吉と鈴木に偶然であった時に、鈴木に倫子の連絡先を聞くこともできたはずだった。

だけど、俺は怖かった。

倫子にとって俺は思い出の片隅の初恋。

そして、倫子を捨てて消えてしまった酷い男だろうと。

永吉と鈴木は、俺を探しに東京の大学に倫子がいったといっていたが、数年たったあのときも同じ気持ちでいるとは限らない・・・何よりも永吉や鈴木に俺と関わってあいつらを変な事に巻き込んでしまうかもしれないという恐怖が勝ってしまった。

母親と分籍したときに、あいつがもう既に死亡した事は知っていた。

借金をした男にまた騙されて、風俗で働かされて嫉妬した客に殺されたというあいつにはお似合いの最期だったらしい。

親の死を知ったら普通は悲しむものなのかもしれない。

でも、俺はやはり人間としてのまともな感情が欠けているのだろう・・・何も彼女に対する感情はなかった。
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