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茜色の空に
第10章 失われた時を求めて
そんなとき、女に声をかけられる。

「お兄さん、ひとり?」

振り返ると、男好きがする見るからに軽そうな女がそこに立っていた。

俺はそのときから、営業用の仮面をかぶる。

「あぁ、ちょうど一人で退屈してたんだ。
よかったら一緒に飲む?おごるよ?」

今のこんな俺をみたら、倫子はなんて思うんだろう。

昔付き合う時みたいに、俺をメガネの奥のあの冷たい瞳で拒絶するだろうな。

そう思うと、小さく笑いが漏れた。

その後ほどほどに酔い、俺はその女の家に転がり込む。

絶対に自分の家に人は入れなかった。

自分の家に来たいという女は、その場で冷たくあしらってサヨナラするのが俺のルール。

女から見ると、最低の人種だ。

心なんていらない、身体だけ重ねて少しでも寂しさを紛らわせられたら充分。

そうして俺は、寂しさを紛らわせるだけの快楽に身を委ねる。

女を抱く度に、逆に寂しさが増していくのも解っていた。

唇で熱い舌を絡ませても、豊かで柔らかい膨らみを愛撫しても、口から漏れる喘ぎ声を聞いても、うねる熱いナカに自分自身を滑り込ませて快感を得ても、心は逆に冷えていくだけだった。

『倫子・・・』

心の中で、そう呟く。

『海渡・・・』

そう倫子が囁く声が響いて、そしてかき消された。
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