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茜色の空に
第10章 失われた時を求めて
その日は特に空しさに支配される事もなく、まっすぐ家に帰った。

家のドアを開け、相変わらず物が少ない殺風景な部屋に帰る。

そして、写真立てに飾ってあるあの写真を手に取った。

唯一、俺が持っている倫子との写真。

俺も倫子もカメラが苦手で、二人で写真もプリクラさえも撮る事がなかった。

林間学校で撮った、永吉と鈴木と倫子と俺が4人が映っている写真。

少し恥ずかしそうに笑う倫子の顔を見つめて、俺は考える。

もし、あのとき全てに立ち向かって逃げずにお前と一緒にいたならば、俺たちは離ればなれになる事もなかったのだろうか。

でもそしたらきっと、出会うこともなかった。

誠さんや雅美さん・・・そして玲奈や片桐や百合にも・・・

そして苦労しながらも大好きな仕事について、心は常に空っぽだけれど打ち込んできたこの仕事に就いた後悔は何もない。

むしろあのまま残っていたら、俺は絶望の底に落とされていたのは間違いないんだ。

ずっとあの手紙を書いた時から、倫子が俺を忘れてくれるのが倫子の幸せだって思ってた。

倫子が幸せなら、俺はいいと思ってたけど・・・やっぱり俺はどうしても倫子に会いたい。

10年経ってもやっぱり、俺は倫子の事を忘れる事は到底できなかったから。
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