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茜色の空に
第3章 桜草を君に
星が綺麗だった。

ふたりで空を見上げながら、手を繋いで倫子の家まで送る帰り道。

家の前にさしかかった時に、倫子の態度が急に変わった。

「ごめんなさい、他の道をとおりましょう……」

彼女がそういって繋いだ手を引く。

そこには路上に停車した車の前で、高そうなスーツを着た小綺麗なおっさんと、地味だけどなんか色気のある若いねーちゃんがキスしていた。

彼女はとてもいつも俺に見せない険しい表情をしている。

「倫子、どうしたんだよ…知り合いか?」

俺が聞くと、倫子はうつむいていつもの冷静な口調で答えた。

「あれは、私の父親と愛人です…」

その時わかった。

いつも倫子が寂しそうに笑うのも、たまに恐ろしいほど冷静になる態度も…そして俺が彼女に惹かれる理由も……

「母親は、しってんのかよ…このこと…」

俺が言うと倫子は冷静に答える。

「気づいてはいるでしょう…母も母で愛人がいますし、うちの両親はわたしが産まれたときからお互いの愛情は冷めきっています。結婚してるのは、世間体と私がいるからという理由だけだそうです」

俺たちはお互いに、両親に愛されていない子供だった。

「そういう環境に置かれた影響かもしれませんが、私は愛情というものがあまり解りませんでした。だからこそ、まっすぐ愛情をぶつけてくるあなたがとても怖かった…」

彼女はそう言って少しだけ繋いだ手に力をこめる。
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