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令嬢は元暗殺者に恋をする
第11章 裏街へ
 いいえ、大丈夫。
 だって、彼は私のことを悪い男たちから助けてくれたもの。
 だから……。

「……っ」

 そんな思いに気をとられて歩いていたせいか、サラは石畳の継ぎ目が盛り上がったところに足をつまずかせてしまった。
 前のめりに倒れそうになったところを、背後からシンに抱きとめられる。

「あ、ありがとう」

「いいや。でも、いいの? 俺のことを信じてしまって」

 思わずサラは息を飲む。
 まるで心の中をのぞき込まれたようで、胸がどきりとした。

「得たいの知れない男に、それもこんな場所に連れ込まれて、俺が悪い男だったらどうする? 二度と外には帰れないよ」

「でも、あなたは悪い人ではないのでしょう?」

「素直なんだね。人を疑うことを知らない」

「だって、さっき私のことを……」

「そう、さっき、あんたを助けたのも下心があってのことかもしれない。それなのに、あんたは俺のことを少しも疑いもせず信じきって、のこのここんな所までついてきた」

 お腹のあたりに回されたシンの手に、くっと力が込められたのを感じる。

「あんた、ほんとに小さくて軽そうだね。このまま、その辺の廃屋に無理矢理かついで引っ張りこむなんてわけもない」

「私を脅して楽しい?」

「そもそも、俺が、あんたの言うシンって奴じゃなかったら、どうする?」

 背中に落ちたその低い声音に、サラはこくりと喉を鳴らした。

 この人が、シンでなかったら?

 ぞくりとしたものが背筋に走った。
 そんなことなど、考えもせず、少しも疑いもせずにここまでついてきた。しかし、すぐにサラはいいえ、と首を振って否定する。

「あなたは間違いなくシンよ。テオはとても珍しい紫の瞳だと言っていた。そんな色の瞳を持つ人なんて、ここではあまり見かけないもの。ねえ、あなたアルガリタの南、アスラット草原地方出身よね? そこの者たちは、おおむね紫の瞳を持つとテオのお話で聞いたことがあるわ。それに草原の民はとてもおおらかで、心が優しいって。あなたは優しい人よ。ねえ、どうしてあなたはこのアルガリタの町に来たの?」

 シンの手が緩み、身体から離れた。
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