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令嬢は元暗殺者に恋をする
第11章 裏街へ
「私の行動を軽率だと思うかもしれないけど、考えなしだと呆れるかもしれないけど」

「まあ、その通りだな」

「それでも、私は本気でハルを探したいの。どうしても会って、私の気持ちを伝えたいの。あなただけが頼りなの」

 サラは勢いよく振り返って背の高い相手を見上げる。

「それにね、これでも私、人を見る目はあると思うの。だから、あなたは絶対に悪い人ではないわ。それに、ハルのお友達なのでしょう?」

 シンは肩をすくめ、ぱっとサラの身体から手を離した。

「そこまで言われたらかなわないよ。悪ふざけがすぎた。謝る。ごめん」

「それで、どうしてあなたはこのアルガリタに来たの?」

 サラはもう一度問いかける。

 一瞬、シンの濃い紫色の瞳に悲しげなものが過ぎった。

「いろいろあったんだよ」

「いろいろって何?」

「いろいろだよ。もう、いいだろ。行くぞ」

 そして、二人は再び裏街の奥に向かって歩き出した。
 突き進むにつれ、腐敗はよりいっそう濃くなっていく。

 時折、好奇な目でこちらに視線を送る者たちがいたが、近寄っては来なかった。しかし、サラは気づいてない。
 背後で彼女を守るべく、睨みをきかせているシンの姿を。
 万が一のために彼の右手が油断なく、剣の柄にかけられていることを。

 そうとも知らず、サラは緊張した顔でよどんだ空気をかきわけるように歩き続けた。が、突然目眩を覚え足をよろめかせる。

 背後から、力強い腕に抱きとめられたがため、地面に倒れ込むことはなかったが。

 まるで身体の力が抜けていくようだ。
 先ほどまでの腐臭とは別の、耐え難い強烈な匂いが鼻をつき、サラは鼻をおおうように手をあてた。
 これ以上この匂いを嗅いでいると、どうにかなってしまいそうだった。
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