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令嬢は元暗殺者に恋をする
第12章 やっと再会できたのに
「これでわかったか? あんたみたいな娘が相手になるような奴じゃないってことを」

 ハルがいる廃屋から少し離れた場所、石畳の上にサラはじかに座り込んでいた。

 抱えた膝の間に顔を埋め、しゅんとうなだれるサラの姿に、どこか憐れむ眼差しでシンは見下ろす。

 落ち込むのも無理はない。
 好きな男が他の女性と抱き合う場面を目の当たりにして、衝撃を受けないはずがない。

 それでも、よくあの場で騒ぎ出さなかったものだとシンは感心した。
 酷なことをしてしまった、という後悔にも似た思いを抱いたことも否めない。

 だが、こうでもしない限りおそらくこの少女はあきめようとはしないだろう。

 これでよかったのだと、シンは自分の心に言い聞かせた。

「あのお部屋から、さっきのよくない薬と同じ匂いがしたわ。相手の女の人もどこかおかしかった」

 表情を曇らせるサラの心情を読みとったシンは眉根を寄せる。
 ハルがよくない薬に手を出していると思っているのだろう。

「違う、あいつじゃない」

「でも……」

「薬をやっているのはここにいる女たちだ」

 サラはそっと、先ほどの女性たちを見やった。

「彼女たちはみんなそうだ。薬に手を出し、後戻りができなくなって身を持ち崩している。まともに働くこともできず、ああして身を売ってる。あいつはどういう体質だか知らないが、何でもないらしいぜ。そういったものは一切受けつけないんだとか」

「あなたはほんとうに薬はやってないのね?」

 顔を上げ、どうなの? とじっとこちらを見つめるサラに、シンは嫌悪もあらわに顔を歪めた。

「あんたもしつこいな。あんなものに手を出すほど、俺は落ちぶれちゃいない」

 サラは考え込むように、視線を膝の上に落とす。

「テオが言ってたの。ハルが怪我をして診療所に運ばれた時、治療をするための麻酔も鎮痛剤も眠るための薬もいっさい効かなかったって」

「つまり、そういう体質に身体が作りかえられているんだろう。まあ、普通じゃ、考えられないけどな」

「誰に? 何のために?」
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