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令嬢は元暗殺者に恋をする
第13章 心を動かされたのは……
「……っ!」

 小さな悲鳴を上げ、サラは肩をすぼめる。
 頬が上気したように赤く、潤んだ瞳は戸惑いに揺れ、目の縁にあらたな涙が盛り上がる。

 シンの瞳に愉悦的な色が広がった。

 何やら含むような笑いを浮かべ、シンは悪戯気に目を細める。
 まぶたを縁どるシンの長いまつげが震えた。
 そのまつげの奥、濃い紫の瞳の奥に揺れるのは妖しい影。

「このまま、あんたを追いつめて堕としちゃおうかな。今なら簡単にあんたの心を崩せそうだ」

「私は……」

「そう簡単には堕ちないって? どうかな。そんなのわからないよ。試してみる?」

「私にはハルがいるもの……」

「思う相手が他にいても、俺はかまわないよ」

 もう一度、サラの手首に口づけをしながらシンは甘くささやく。
 手首にぞくりとした甘い痺れが走っていく。

「……っ」

「この程度で感じちゃって可愛い。ていうか、新鮮。俺の手に堕ちておいで、サラ。いっぱい可愛がってあげる。俺、優しいよ。それに、うまい」

「うまい?」

 シンの唇がサラの耳元に寄せられ、吐息混じりにささやく。

「セックスがね」

 もはや声も出せず、サラは真っ赤な顔で口をあわあわとさせた。

 しかし──。

「ぶふっ!」

 突然シンは吹き出し、さらに腹を抱え、声まで上げて笑い出した。

「子ども扱いするなって言うから、ちょっとからかっただけなのに、あんた、すっごい顔真っ赤だし慌ててるし……本気にされちゃったらどうしようって、俺の方がひやひやしたよ。あははは……」

 サラはきゅっと唇を噛んだ。
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