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令嬢は元暗殺者に恋をする
第14章 裏街の頭
 サラはシンと出会った経緯をかいつまんで話し、遠慮する彼をなかば強引に中へと招き入れたのであった。

 物怖じすることもなく、師とは初対面だが変な遠慮をするわけでもなく、かといって無礼さはなく、色々と世間を見てきたのであろう、話題も豊富であった。

 師とサラは喜んで彼の話に耳を傾けていた。
 もっとも、テオから見れば、ただ調子がいいだけの男にしか見えないのだが。

「おやシンくん、君、なかなかいける口だね」

 ベゼレートは嬉しそうに、シンの空になったグラスになみなみと葡萄酒を注ぐ。

 かたわらではサラがほんのり顔を赤くして、林檎酒を舐めていた。

「先生こそ、なかなか」

 お返しとばかりに、シンもベゼレートの空になったグラスに赤い液体をそそぎ返す。その繰り返しが何度となく続いた。

 眉をひそめ、テオはなかば呆れた顔で二人のやり取りを眺めていた。
 まさか師がこれほどの酒豪だとは思わなかったという驚きもある。

 だがそれ以上に……。

 眉をしかめたまま、テオは斜め向かいに座るシンに視線を据える。
 テオにとって大切な師が、ひょっこり現れたこの男に取られてしまった気がして、少々面白くなかったのだ。

 何なんだこいつは?
 こっちは明日も仕事があるというのに、いつまでも図々しく居座って。
 ああ、先生そんなにお酒を飲まれては、明日の仕事に差し支えが……。
 く……それもこれも、すべてこいつのせい。
 いや、元をたどればあいつのせいだ。

 こいつといって、テオはシンを睨みつけ、そして、あいつといって、ハルの姿を思い浮かべるのであった。
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