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令嬢は元暗殺者に恋をする
第14章 裏街の頭
「ところで、シン君、君はこのアルガリタに住んでいるのかね?」

 ベゼレートがシンに尋ねる。

「はい。といっても『裏街』ですけど」

 突然、テオは飲んでいた紅茶をぶわっと、勢いよく吹きだした。

「う、裏街だって!」

 三人の視線がいっせいにテオに向けられる。

「お兄さん、汚い」

 シンは整った眉をしかめてテオを見た。
 テオは慌てて手の甲で口許を拭う。

「う、裏街っていったらあの犯罪者の巣窟。そこに身を落とした者すべてが極悪非道だという……お、おまえ、そんなところに!」

 裏街といえば、浮浪者や、表社会に顔を出せない犯罪者たちの巣窟となった暗黒街。

 窃盗、麻薬、暴行、強姦、殺人が日常茶飯事におき、役人たちですら足を踏み入れたがらない、よどんだアルガリタの裏の世界。

 確かに、初めて会ったとき、何となくただ者ではない気配を感じはした。
 が、まさか裏街の住人だったとは、テオは驚きに目を瞠らせた。

 女みたいな顔で、たいして強そうにも見えないこいつが……?

 対して、ベゼレートは特に動じた素振りも見せず、シンの話を聞いてもそうですか、とにこやかにうなずくだけであった。

 先生、そこは穏やかに笑うところではないと思います!

 だが、こんなことで驚くにはまだまだテオは甘かった。
 さらに驚愕の事実が、テオを打ちのめす。

 シンはそこで考え込むような仕草で腕を組む。

「俺、先生に隠すのも嘘つくのも気が引けるから、正直に言いますけど……実はその裏街で、頭をやってます。数ある派閥の中でも、俺が束ねる一派は百余名、裏街の中では最大かも」

 先生は感心したようにほう、と答える。

 もはやテオは開いた口がふさがらず、紅茶のカップを手に硬直している。
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