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令嬢は元暗殺者に恋をする
第2章 出会い
「危険なのは、まあ、あたっているけど……」

 再び少年は両肩を小刻みに震わせ、声を押し殺して嗤う。
 可笑しくてたまらないという様子であった。

 サラは驚きに目を見開いた。

 少年の態度もそうだが、それ以上に驚いたのは、少年の口から出た言葉が見事なアルガリタの言葉であったから。

 異国の人間がここまで流暢にアルガリタ語を操るのも珍しい。
 おまけに重傷を負っているわりには、口調も明瞭としていた。

 思わずサラは身体を震わせる。
 少年の冷たい指先が首筋へと伸びてきたからである。

「こんなに細い首なら折るのも容易い。絞め殺すにしても片手でこと足りる」

「あなた言葉……」

「あんたみたいな、何不自由ない貴族のお嬢さんが偽善者面するのは嫌いなんだよ」

 首にかけられた手にほんの少し力が加わる。

「引き裂いてやりたいくらいだ」

「あ、私……殺されてしまうの?」

 けれど、それは杞憂に終わった。

 不意に少年に肩を押され、サラは尻もちをついて倒れる。
 すかさず、護衛のひとりがサラの腕をつかんで立たせ、引き寄せた。

 剣を支えに少年はゆらりと立ち上がり、険しい形相を浮かべる男たちに一瞥をくれ鼻白む。

 そして、何を思ったのか、少年は肩に突き刺さった矢に手をかけ、一気に引き抜いた。

 サラは悲鳴を上げ口許を手で押さえる。

 少年は引き抜いた矢を無造作に男たちの足下に投げ放った。
 肉が裂かれ、飛び散った血が、大地に点々と赤い染みを作る。

 なのに、少年は顔色ひとつ変えようとはしない。それどころか平然としている。
 流れる幾筋もの血が少年の右腕を鮮烈な赤に染め、指先を伝い落ちていく。

 痛みを感じないのか。
 いや、そんなはずはない。その証拠に少年の顔は血の気を失い青褪めていた。

 男たちの腕を強引に振りほどき、サラは少年の元へと走り寄り、持っていたハンカチを少年の肩に押しあてた。

「どうしてこんなことを……無茶しないで、お願いだから……」

「俺にさわるな」
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