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令嬢は元暗殺者に恋をする
第2章 出会い
 診察室の扉を食い入るように見つめ、サラは落ち着かない様子で椅子に腰をかけていた。

 扉の向こうでは先ほどの少年が傷の治療を受けている。
 かれこれもうずいぶんと長い時間が経過していた。

 いったい、どういう状況になっているのか全くわからないだけに、いや増しに不安がいっそう濃くなっていくばかりであった。

 無事であって欲しいと、何度も心の中で祈りを唱え、胸のあたりで組んだ手を強く握りしめる。

 窓の外に視線を転じると、外はすでに夜の闇。

 ここへ運ばれてきたのはおそらく夕刻頃。おそらくというのは、気を失っていたため、運ばれてきた時の状況を知らないからだ。

 お願い、あの人を助けて。

 指先が白くなるほどに組んだ手を握りしめ、再び、サラは診察室の扉に視線を据えた。

 王都アルガリタ。
 その都の一角に、医師ベゼレートの小さな診療所がある。
 お世辞にも立派とは言い難い建物だが、患者を診る医師の腕は最高。

 彼は二十年ほど前まで、王家専属の医師を務めていたという。
 当時、まだ二十歳なかばであったベゼレートは、若き天才医師として王侯貴族の間で大変な噂に昇り、その活躍ぶりは目を瞠るものであった。

 だが、彼は突然、専属医師の任を辞し、都で人々のために小さいながらも診療所を開業するようになった。

 何故、先生が王家の専属医師から降りたのかという事情はサラは知らない。何か失態を犯したというわけでもないらしい。

 けれど、そのことに触れることは禁忌という暗黙的なものがあったため、サラもあえて詮索はしなかった。

 心にかかる闇を振り払う。

 大丈夫。
 先生なら、きっと助けてくれる。
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