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令嬢は元暗殺者に恋をする
第2章 出会い
 ひたすら少年の無事を願い続けるサラの目の前で、診察室の扉が開かれた。

 中から四十代後半の男が姿を現した。
 彼こそこの診療所の医師、ベゼレートその人であった。

 咄嗟にサラは椅子から立ち上がり、今にも飛びつきかねない勢いで少年の様態を問う眼差しをベゼレートに向けた。

 ベゼレートは彼女の気鬱を取り除く穏やかな笑みを口許に浮かべ、目尻に皺を刻んでゆっくりとうなずいてみせた。

 何一つ語らずともそれだけで、じゅうぶんであった。

「よかっ……」

 口許に両手をあて、サラは肩を小刻みに震わせた。
 緊張と不安に張りつめていた心の糸が一気に解け、涙がこぼれ落ちる。

「しばらく安静ですが、心配はいらないですよ」

 何より彼はまだ若く体力もある、とベゼレートはサラの細い肩に手を置き安心させるように言った。

 よかった。
 本当によかった。

 少年に治療を施してくれたベゼレート医師に頭をさげ、サラは手の甲で涙を拭った。

 ベゼレートは緩やかな笑みを浮かべたまま側の椅子に腰を降ろした。
 少年のことで頭がいっぱいのサラは気づかなかったが、ベゼレートの顔はひどく憔悴しきっていた。

 そこへ、ひとりの青年が憤激も甚だしく診察室から現れ、乱暴な仕草で扉を閉めた。

 青年の名はテオ。
 ベゼレートの養い子であり薬師である。

 年の頃は二十歳くらい。
 陽光にさらせば金髪にも見える、少し癖のある薄茶色の短めの髪に、瞳は澄んだ碧。
 争い事や揉め事を好まぬという、穏やかな顔貌つきと雰囲気を持つ青年である。

 そんな彼が怒りもあらわにするなど珍しく、サラは首を傾げた。
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